2015年 04月 25日
懐かしの卒論1 |
第一次世界大戦期における英国財政問題
―租税に焦点を当てて―
はじめに
Ⅰ.第一次世界大戦前の英国財政とその特徴
1.軍事費の膨張
2.直接税―相続税改革問題
3.ボーア戦争と増税
4.人民予算
Ⅱ.英国戦時予算の概要
Ⅲ.租税負担の限界へ
1.所得税
2.超過利得税
Ⅳ.公債発行
1.ロイド・ジョージの公債発行
2.公債によるファイナンス
Ⅴ.戦時財政と英国社会
おわりに
はじめに
本論文で扱う英国の財政改革の流れは一言で言うと税金が取られるものから納めるものへと変化したということである。近代国家そのものが、各人の所得を監視し、税金を取り立てるというシステムを作り上げたのである。英国は懲罰的な所得補足団体を作り上げ、そしてそれを運用し税金を徴収した。このことの意味を現代からとらえ直さなければならない。その大きな画期が第一次世界大戦である。
第一次世界大戦における英国の財政問題をなぜ今研究する必要があるのだろうか。冷戦終結後、先進国間では大いなる平和が達成されつつあり、世界の状況は戦争、それも総力戦からはほど遠いように見える。戦争は総力戦から局地戦の時代へと移り変わり、大国は本国に平時体制を残しながらも戦争を継続できる国力を得ており、現代の戦争情勢は第一次世界大戦のような総動員とは全く違う状況下にある。これだけ並べると第一次世界大戦の財政を研究する意味は無いと思えるかもしれない。だが、それは間違っている。
先進諸国は現代において共通の問題を抱えている。国家債務の増大にどう対処するのかということである。そこで、歴史上画期となる事件が二つある。もちろん、一つはこの論文の主題でもある第一次世界大戦であり、もう一つは第二次世界大戦である。第二次世界大戦における対処法とは中央銀行による国債引き受け体制への移行であり、特に枢軸諸国では貿易の停止から紙幣の信用を維持する必要はなく(できなかったというべきかもしれない)、まさに国債の紙幣化によって両陣営とも戦い続けたのであった。そして、連合諸国ですら大戦終結後、アメリカによる債務保証や支援、そしてインフレーションによって乗り切ったものの実質的な債務不履行に陥っていることを考慮しなければならない。
それに先立つ第一次世界大戦においてすでに、ドイツは両方を経験し、フランスは中央銀行による引き受けは経験したものの、デフォルトとはならず、ポワンカレの奇跡と呼ばれる現象によってフランの価値を何とか保った。そのような両国の状況に対して、英国では中央銀行の引き受けも、戦後の破綻も引き起こされなかったことに注目しなければならない*1。そうできなかった原因があるのかも知れないが、それを考慮に入れた上で、もがきながらも結果として両方を回避できたのは、もしくは戦後デフォルトに陥らなかったのはなぜかを考えることは、現代の国債市場を考える際に重要な参考となるであろう。近代戦争の巨大な支出をどのようにファイナンスしたのか、という問題はまさにこの時期の英国が最初に直面し一応の解決策を見出した問題なのである。そして、その結果として冒頭に述べた近代的な租税システムが出現したのである。
本論文では、この時期に開発された様々な歳入確保の仕組みの中でも英国の強みとされている部分、租税を中心に扱う。英国における課税体制と、国内議論の進行、そして政治家がどのように国民的合意を形成していったのかということを視野に入れて考えていく。この時代の政治家というと不可避的にロイド・ジョージが中心になる。ロイド・ジョージは所得税導入に大きな力を発揮した人物であり、第一次世界大戦中も、そして開戦した年にも国債の販売と増税において中心的な役割を果たした。
もちろん、本論文の租税を財政問題の中心とした議論とは別の議論も存在する。それは国債の販売を中心に考えた議論である。だが、国債を販売するときに重要な信用を生み出す源泉であった、償還をどのように行うのかという点において租税は重要な位置を占めていたことを無視してはならない。つまり、常識的に考えれば返済の見込みが無ければ投資家は融資しないのだ*2。
まず、Ⅰ.において、英国の大戦直前の財政状況と課税の状況を整理する。その上で、諸外国との差に着目し、英国財政の特徴というものをつかむ。同時に、戦時に突入した際にそれはどのような強み、もしくは弱みを生み出したのかを考えていく。
Ⅱ.においては英国の戦時財政の概要を確認し、また開戦直前の1914/15年予算の話し合いの過程をみていく。この過程で、戦争指導者の序盤の考えはどうだったのかということをつかむ。どのようにこの戦争における資金調達を行う予定であったのか、そしてそれがどのように変わっていくのかということとに注目する。
そして、Ⅲ.では直接税の造成の過程を年代順に確認していく。戦時財政における租税収入の柱は2つある。一つは所得税でありそれは戦前から租税収入において大きな位置を占めてきていた。そしてもう一つは超過利得課税である。この超過利得税の創設と所得税の増税を巡る議論とその導入実態をみていく。特に超過利得課税の導入により、まさに経済は戦時体制として一つの閉じた形へと変化していった。戦争によって発生した利潤はそのまま国庫へと変換され国民経済の変質が激しくなってきた時期でもあるだろう。
Ⅳ.では公債発行について確認する。公債発行は戦時収入の最大部分であり、その発行問題は大きかったのである。この公債発行は戦時中各国で行われることになる。
Ⅴ.は英国の戦時中の課税議論、及び公債消化から何が見えるのかということを検討する。仏独との増税時における社会の反応とどう違うのか、もしくはどう同じなのかということについて考える。
―租税に焦点を当てて―
はじめに
Ⅰ.第一次世界大戦前の英国財政とその特徴
1.軍事費の膨張
2.直接税―相続税改革問題
3.ボーア戦争と増税
4.人民予算
Ⅱ.英国戦時予算の概要
Ⅲ.租税負担の限界へ
1.所得税
2.超過利得税
Ⅳ.公債発行
1.ロイド・ジョージの公債発行
2.公債によるファイナンス
Ⅴ.戦時財政と英国社会
おわりに
はじめに
本論文で扱う英国の財政改革の流れは一言で言うと税金が取られるものから納めるものへと変化したということである。近代国家そのものが、各人の所得を監視し、税金を取り立てるというシステムを作り上げたのである。英国は懲罰的な所得補足団体を作り上げ、そしてそれを運用し税金を徴収した。このことの意味を現代からとらえ直さなければならない。その大きな画期が第一次世界大戦である。
第一次世界大戦における英国の財政問題をなぜ今研究する必要があるのだろうか。冷戦終結後、先進国間では大いなる平和が達成されつつあり、世界の状況は戦争、それも総力戦からはほど遠いように見える。戦争は総力戦から局地戦の時代へと移り変わり、大国は本国に平時体制を残しながらも戦争を継続できる国力を得ており、現代の戦争情勢は第一次世界大戦のような総動員とは全く違う状況下にある。これだけ並べると第一次世界大戦の財政を研究する意味は無いと思えるかもしれない。だが、それは間違っている。
先進諸国は現代において共通の問題を抱えている。国家債務の増大にどう対処するのかということである。そこで、歴史上画期となる事件が二つある。もちろん、一つはこの論文の主題でもある第一次世界大戦であり、もう一つは第二次世界大戦である。第二次世界大戦における対処法とは中央銀行による国債引き受け体制への移行であり、特に枢軸諸国では貿易の停止から紙幣の信用を維持する必要はなく(できなかったというべきかもしれない)、まさに国債の紙幣化によって両陣営とも戦い続けたのであった。そして、連合諸国ですら大戦終結後、アメリカによる債務保証や支援、そしてインフレーションによって乗り切ったものの実質的な債務不履行に陥っていることを考慮しなければならない。
それに先立つ第一次世界大戦においてすでに、ドイツは両方を経験し、フランスは中央銀行による引き受けは経験したものの、デフォルトとはならず、ポワンカレの奇跡と呼ばれる現象によってフランの価値を何とか保った。そのような両国の状況に対して、英国では中央銀行の引き受けも、戦後の破綻も引き起こされなかったことに注目しなければならない*1。そうできなかった原因があるのかも知れないが、それを考慮に入れた上で、もがきながらも結果として両方を回避できたのは、もしくは戦後デフォルトに陥らなかったのはなぜかを考えることは、現代の国債市場を考える際に重要な参考となるであろう。近代戦争の巨大な支出をどのようにファイナンスしたのか、という問題はまさにこの時期の英国が最初に直面し一応の解決策を見出した問題なのである。そして、その結果として冒頭に述べた近代的な租税システムが出現したのである。
本論文では、この時期に開発された様々な歳入確保の仕組みの中でも英国の強みとされている部分、租税を中心に扱う。英国における課税体制と、国内議論の進行、そして政治家がどのように国民的合意を形成していったのかということを視野に入れて考えていく。この時代の政治家というと不可避的にロイド・ジョージが中心になる。ロイド・ジョージは所得税導入に大きな力を発揮した人物であり、第一次世界大戦中も、そして開戦した年にも国債の販売と増税において中心的な役割を果たした。
もちろん、本論文の租税を財政問題の中心とした議論とは別の議論も存在する。それは国債の販売を中心に考えた議論である。だが、国債を販売するときに重要な信用を生み出す源泉であった、償還をどのように行うのかという点において租税は重要な位置を占めていたことを無視してはならない。つまり、常識的に考えれば返済の見込みが無ければ投資家は融資しないのだ*2。
まず、Ⅰ.において、英国の大戦直前の財政状況と課税の状況を整理する。その上で、諸外国との差に着目し、英国財政の特徴というものをつかむ。同時に、戦時に突入した際にそれはどのような強み、もしくは弱みを生み出したのかを考えていく。
Ⅱ.においては英国の戦時財政の概要を確認し、また開戦直前の1914/15年予算の話し合いの過程をみていく。この過程で、戦争指導者の序盤の考えはどうだったのかということをつかむ。どのようにこの戦争における資金調達を行う予定であったのか、そしてそれがどのように変わっていくのかということとに注目する。
そして、Ⅲ.では直接税の造成の過程を年代順に確認していく。戦時財政における租税収入の柱は2つある。一つは所得税でありそれは戦前から租税収入において大きな位置を占めてきていた。そしてもう一つは超過利得課税である。この超過利得税の創設と所得税の増税を巡る議論とその導入実態をみていく。特に超過利得課税の導入により、まさに経済は戦時体制として一つの閉じた形へと変化していった。戦争によって発生した利潤はそのまま国庫へと変換され国民経済の変質が激しくなってきた時期でもあるだろう。
Ⅳ.では公債発行について確認する。公債発行は戦時収入の最大部分であり、その発行問題は大きかったのである。この公債発行は戦時中各国で行われることになる。
Ⅴ.は英国の戦時中の課税議論、及び公債消化から何が見えるのかということを検討する。仏独との増税時における社会の反応とどう違うのか、もしくはどう同じなのかということについて考える。
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by Foch_WS
| 2015-04-25 18:32
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